その女性(ひと)は、凛としている。
クールで、取材するこちら側に、無理に愛想を振りまこうとしない。
しかし、その女性(ひと)が取材中にふと、微笑を浮かべ、やさしい眼差しを向けた瞬間を見逃さなかった。
それは、自分の育てている野菜を見たとき。
慈愛に満ちていて、あらゆる人たちを安堵させてくれるような微笑だった。
だから、その女性(ひと)がつくる野菜はおいしいのだ。
世の人々が抱きたがる、カジュアルでかわいい「農業女子」のイメージなどまるで気にもかけないで、
自分の道を究めようとしている、クールな女性がいなべ市の立田地区にいる。
その女性(ひと)の名は、地域おこし協力隊の小野綾子さん。
いなべ市立田農園の農園長でもある。
神戸市出身で、大阪の市場に勤める知人を通じていなべ市地域おこし協力隊の募集を知り、応募して現在に至る。
今年4月にオープンしたばかりのいなべ市立田農園には、ビニールハウスが7棟並ぶ。
小野さんは、ここで地元の従業員や地域の人たちとともにトマトをメインにした野菜を栽培し、
大阪など遠方の市場や「うりぼう」、「いなべっこ」といった市内の農産物直売所に卸している。
優位に立てる立地条件だ、と直感で感じたそうだ。
立田地区に移住してきた当初、名古屋からほど近く、国道が通る立田地区の恵まれた環境で嬉しかったという。
また農園で地域を活性化させようとする自治会や地域の人たちの意識の高さに共鳴し、立田の発展のために役に立ちたいと願うようになった。
赤、黄、だいだい、薄緑……。
小野さんのトマトはカラフルで、集めるとグラデーションが美しく、パレットを広げたように心が弾む。
また、外の皮を破るのが楽しいホオズキや、皮が薄すぎて深い甘さのあるプチぷよ、極端に小さくて見た目にかわいいマイクロトマトなど、
トマトの品種選びに遊び心があって農園を訪れた人たちは魅了されてしまう。
いなべ市立田農園では、今夏以降、年間を通じていつでもトマトの収穫体験をできるように準備しているそうだ。
トマト以外にも出荷できる野菜や果物などを栽培するほか、貸し農園も運営し、オーナーを募集している。(オーナーはいなべ市外の方が対象)
飲食のできる休憩スペースや、衛生的な多目的トイレもあり、快適に週末農業を楽しめる。
収穫した野菜を手に持ってもらって、スタッフの菊地秀勝さんと一緒に撮影しようとした際、「笑顔でお願いします」と促すと、小野さんははにかんだ。
生き方は、器用ではないかもしれない。
しかし誰より真面目で、農業に一途で、何より野菜がおいしい。
きっとこの農園ですくすくと育てられている野菜たちは知っている。
小野さんの深い愛情と、包み込むように優しい人柄を。
「お疲れ様でした」
撮影後に小野さんに返す笑顔など、きっといらないのだ。
おいしいね。
それでいい。それがすべてだ。
【Credit】
〈取材撮影ご協力〉
いなべ市立田農園 農園長
地域おこし協力隊 小野 綾子さん
〈撮影〉
高橋博正写真事務所/山の上スタジオ
高橋 博正
※いなべ市役所 企画部 政策課所有の画像も使用
〈インタビュア〉
いなべ市役所 企画部 政策課
〈撮影場所〉
TEL:0594-37-3004 FAX:0594-37-7271
E-mail:info@sanryu-tatsuta.jp