藤原町東禅寺にひっそりと佇む小さな楽器工房「HATTA works」。
そこに、いなべの豊かな自然に囲まれながら、楽器を作り続ける八田淳史さんの姿がある。
「注文が入ったんですよ」と照れくさそうに話す八田さん。制作する楽器はすべてハンドメイド、手作りにこだわっている。
それは、自らの手でしか作り出せない楽器に出会うためだ。
「制作していくなかで大切にしているのは、売れてほしいという思いです。でないと次の楽器を作ることができませんから」と語る。
八田さんは岐阜県大垣市で修行を積んだあと、自らが生まれ育ったいなべ市で楽器制作を開始した。
「だってわざわざいなべを出る理由も見つかりませんでしたから」と当たり前のように話す。
八田さんが作るのは、アコースティックギター、ウクレレやフラットマンドリンといった弦楽器が中心だ。
作るデザインは購入者に受け入れてもらえるよう、スタンダードなものを中心に制作している。
「木を削るのは、楽しいです。購入された方から、直接声を聴くことができるのもとても嬉しいです」
八田さんは常に音楽と共に歩んできた。自宅には幼少期からピアノがあり、学生時代にはバンド音楽もよく聴いていたという。
こうしたいつも音楽がそばにある環境が、八田さんを楽器制作に駆り立てる大きなきっかけとなったのだろう。
現在では、HATTA worksの楽器は三重県内のみならず、東京でも販売を行っているほか、
有名なミュージシャンが愛用するなど活躍の幅は広がっている。
彼の工房には、整頓された道具や制作中の楽器がずらりと並んでいる。
作り始めたばかりのものから完成間近のものまで、様々な楽器の姿がそこにはあった。
自ら材料を調達し、型を取り、自分が思い描いた形に削っていく。
その削りを数ミリ間違えただけでも、完成に大きく影響してしまう。まさに0.1mmの世界での戦い。
繊細かつ気の遠くなるような作業を八田さんは黙々と一人でこなす。
「0.1mmの狂いが積み重なってしまってはいけないんです」と語る八田さん。
例えばフラットマンドリンを一つに制作するのに、約2ヶ月かかるという。
その間八田さんはひたすら楽器作りに没頭し、自らを追い込む。
「ハンドメイドで制作するときに重要なのは、最低限のレベルから、いかに工夫をして質を高めていくかだと思います。ここが工場生産との大きな違いですね。
これでいいかと自分で妥協してしまってはいけないんです。そうしてしまうと、売れなくなってしまいますから」
そう語る八田さんの瞳は熱を帯びていた。
これからも彼は自身とひたむきに向き合い続けるのだろう。至高の楽器を追い求めて。
【Credit】
〈撮影場所〉
HATTA works
〈取材撮影ご協力〉
八田 淳史さん
〈撮影/インタビュア〉
いなべ市役所 企画部 政策課