「ほんと、ジャングルみたいやろ」
いくつもの高く大きな葉と水に囲まれた畑を見ながら、その人はそう言った。
東松ひさ代さんは10年以上前から山あいの土地を開墾し、農業を営んでいる。元々の生まれは大安町だったが、結婚を機に北勢町に嫁いできたそうだ。
生ごみをリサイクルした有機肥料を使い、野菜作りをする「つちっこの会」の会員であり、自身でも「ひさ代ファーム」という会社を経営している。
ひさ代さんが栽培するのは、自然薯、大和芋や真菰など多岐に渡る。
そのなかでも川べりの土地に養老山地の清流を引き込み、作られたレンコン畑の景色は圧巻だ。
「今年はこんなにできるとは思ってなかったわ。これまでで一番の出来やね」と汗を流しながら嬉しそうに話す。
畑に入ってみると、蓮の花やそのつぼみが控えめに咲いており、なかにはトンボ、カエルやメダカといった小さな生き物たちもひょっこりと顔を出し、挨拶してくれた。
ひさ代さんが農業を始めたのは、知り合いに「荒れた土地に野菜を栽培してみいひんかね」という提案を受けたことがきっかけだった。
しかし、土地を耕そうにも何から始めればよいのか全くわからない。
そんなとき、助けてくれたのは地元の人々だったという。
「地元の人が畑のノウハウを全部教えてくれてね」と懐かしそうに昔を語るひさ代さん。
今でこそ作業には小型の油圧シャベルといった機械を使っているものの、農業を始めた当初は土を掘り起こすのもすべて手作業で行っていたそうだ。
「ほんとあの頃は大変やったわ。種を植えるだけでも一苦労やった」と言いながらも、畑を見つめるまなざしはとても優しい。
物珍しそうに畑を見ていると、「こっちも畑も見ていきな」と快く他の畑を案内してくださった。
野菜を購入する人にさまざまな品種を味わってもらうため、毎年植える種は変えているという。
「やっぱり食べてくれる人のことが一番やからね」そんな何気ない言葉にもひさ代さんの温かい人柄と野菜作りに対する丁寧さが表れている。
カメラを向けると、「私なんかでええんやろか」と言いながら、少し照れた表情を見せてくれた。
ひさ代さんの作る野菜たちは、毎日こんな素敵な人に見守られながら、日々育っている。
なんて恵まれた野菜たちだろう。それはおいしいはずだ。
最後に「今日は来てくれてありがとうね。」と言ってはにかんだ笑みを見せてくれたひさ代さん。その笑顔にまた会いにいきたい。そう思った。
【Credit】
〈撮影場所〉
北勢町南中津原
〈取材撮影ご協力〉
東松 ひさ代さん
〈撮影/インタビュア〉
いなべ市役所 企画部 政策課
〈取材日〉
2018年8月7日