山を望む力強い自然の景色と、利便性の高い町の暮らしが共存する三重県いなべ市。
自然が豊かな土地は、水にも恵まれ、農産物や畜産などのおいしい名産品が並ぶ。
旅をするにあたって、有名な観光名所や温泉に訪れるのもいいけれど、
やはり『おいしいもの』に出会いたいという想いは、誰しもが抱いているのではないだろうか。
おいしいものは、作り手の想いが伝わってくる。
いなべ市の名産品の1つに『お茶』がある。石榑(いしぐれ)という町がその名産地。
石榑で100年ほど続く茶屋『岡製茶』を営む岡勝弘さん、岡愛子さん夫妻。
勝弘さんは三代目。お茶を作り続けて45年になるという。
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特有の深いコクと滋味が人気、
いなべの名産品『石榑茶』。
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いなべ市の中心街の阿下喜(あげき)から車で10分ほど走ると、力強い山の景色がだんだん迫ってくる。
美しい山稜に気を取られつつ、ふと窓の外に目線を落とすと、いつの間にか目の前に茶畑が広がる。
そして宇賀川をはじめ、たくさんの川が町に流れていることに気づく。
朝霧がかかる鈴鹿山脈の麓、いなべの景勝地・宇賀渓から流れるきれいな水が、石榑の里で育まれるお茶をおいしくするのだと、勝弘さんは語る。
川の流れを感じながら飲むお茶はまた絶品。景色や、ひととの出会いが味をさらにおいしくする。これが旅の醍醐味とも言える。
岡製茶では、自分たちのお茶を安心安全に、おいしく消費者に届けるべく、土造りからこだわり、自園での栽培から製造・仕上げ、販売まですべて一貫している。
三重県いなべ市の『石榑茶』は、特有の深いコクと滋味が人気。
濃厚で二煎、三煎でも味と香りが落ちにくく、一つ一つの工程を大切にし、丁寧に作られているのも、町のひとたちに愛される理由の1つである。
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暮らしの中に作り手の想いを。
いなべの職人のこだわり。
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お湯の温度や淹れ方にもコツがあると、愛子さんはお茶をふるまいながら教えてくれた。
ペットボトルやパックのお茶が主流になりつつある中で、お茶本来の味に出会うことが少なくなっているせいか、その味の違いに驚く。
茶葉の品種の特徴というよりも、やはりその土地の土壌、気候、標高など、さまざまな自然の条件が独自の味を作る。
明治の頃、石榑のお茶は手もみされていた。
そのため茶畑の面積を増やしていくのはなかなか難しかったそうなのだが、石榑のお茶は人気だった。
夏が過ぎても風味や鮮度が落ちない石榑のお茶は、真空パックなどの保存技術がなかった時代にも重宝された。
お茶の需要やお茶農家が減少した現在も、茶畑の面積やその風景は当時からほとんど変わっていないという。
変わらない石榑の茶畑のある風景も、愛される理由だと感じる。
『質の悪いお茶は出さない』という勝弘さんの言葉に、半世紀近くお茶を作り続けてきた職人としての誇りとこだわりを感じる。
それもまた、長く愛され続ける理由の1つなのかもしれない。
毎日の暮らしの中に、作り手の想いが感じられるものを一つ取り入れてみる。
そんな豊かな暮らしのあり方を、鈴鹿山脈を望む、いなべの茶畑から感じることができた。
いなべの魅力を尋ねると、2人は山の方を見上げた。
いなべに生まれ、いなべに暮らす人たちにとって、山は、
当たり前な景色でもあり、日々の活力の源でもあるようだ。
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岡製茶(おかせいちゃ)
自園での栽培から製造・仕上げ、販売まで、すべて一貫する100年ほど続く老舗の茶屋。
玉露、かぶせ、煎茶、番茶、玄米茶、ほうじ茶などを取扱う。中でも、滋味深いかぶせ茶が人気。
【住所】三重県いなべ市大安町石榑南916
【電話番号】 0594-78-0054
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【Credit】
〈撮影場所〉
岡製茶(大安町石榑南)
〈取材撮影ご協力〉
岡 勝弘さん、愛子さん
〈撮影〉
フォトグラファー 熊谷 義朋
〈インタビュア・テキスト〉
PARK GALLERY 加藤 淳也
〈衣服〉
toi designs とわでざいん
着るひとの暮らしに寄り添いながら『永遠(とわ)に着られる服作り』をコンセプトに名古屋を拠点に活動するブランド。
岡製茶では、工場の横で対面販売を行なっている。
toi designs の服がまるで昔から継がれた店頭での制服のようでもある。カジュアルだけれど、上品に着こなせる麻の柔らかい素材が特徴的。