あの光景が、忘れられないでいる。
2016年8月に開かれた、にぎわいの森出店者と市民との交流会。
ここで、大志のある一人の青年は大衆を前に、臆することなく言った。
「今は会社員をしているけど、いなべ市の食材で洋菓子を作る仕事がしたい」
その真っ直ぐな青年の目に聴衆の多くが、いなべの新時代を予感していたように思う。
あのとき、本当の意味で、いなべ市の大交流時代が始まったのではないか。
あれから2年。
この青年は描いた夢、願い、いや、この街への祈りにも似た生業を具現化させた。
Sweets Lab #1090の太田好和さん。
昨今、ヨソモノが街づくりで注目されるが、太田さんは生粋のいなべ人だ。
いなべ市員弁町上笠田の自宅に店舗と工房を構え、いなべ産の食材をふんだんに使った、いわば、いなべオリジナル・スイーツを販売している。
その代表的な商品が、カタラーナ。
冷凍の状態で販売し、半解凍の状態で食べる、新感覚のスイーツだ。
濃厚なカスタードをベースに、表面に香ばしいカリカリのカラメルがのっていて、食感も楽しい。
このほかにも、ロールケーキ、フィナンシェ、クッキーなど多くの商品を販売している。
スイーツ作りのきっかけは、小学生のときだそうだ。
調理実習で強く興味が沸き、それ以降、憧れに突き動かされて、長年かけてスイーツを作り続けた。
誰もが、幼い頃抱いた憧れをそのままカタチにするのは難しい。
太田さんはその憧れに、バニラエッセンスのような薫り高い「いなべらしさ」と、「ムラ文化に対する反骨心」というスパイスを独自でミックスして、自分だけのスイーツへと昇華させた。
「ネット販売もいいが、対面販売も大切にしたい」と語る太田さんは、積極的に市内外でイベント等に出店し、出会いや交流の中で感性を磨いている。
いなべライフスタイルの夜明け。
夢を語った2年前の太田さんと、それを実現させた今の太田さんがオーバーラップする。
夢と憧れをつないだ自慢のカタラーナは、濃厚というより、豊かな味だ。
やがて、いなべ市はにぎわいの森がオープンし、都市住民との交流が広がる新時代へと突入する。
そのときに、太田さんのように、いなべ市の本当の豊かさを伝えよう。
豊かなのは、自然だけではない。
クリエイティブな表現世界も、人も、時間も、……そして、全てをひっくるめた人生も。
希望の方角である東の空を見てほしい。
ほら、もう、いなべの日は昇り始めているのだ。
[ Sweets Lab #1090 ]
【Credit】
〈撮影場所〉
Sweets Lab #1090
〈取材撮影ご協力〉
太田 好和さん
〈撮影/インタビュア〉
いなべ市役所 企画部 政策課
※一部でご本人提供の画像も使用
〈撮影場所〉
いなべ市員弁町上笠田