動物の生命力、肉体や魂の美しさに魅了され、サイやクマ、リクガメ、セイウチ、カバなどを11年以上にわたりつくり続けている、
いなべ在住の彫刻家 横田千明さん。
いなべで生まれ育った横田さんは、愛知県の大学に進み彫刻を学んだ後、地元に戻り作家活動を続けている。
代表作品には、存在感のある巨体な動物が多く、近年の大作は等身大のロバ(写真下)。
作品の表面はすべすべした触り心地で、どこか異星のいきもののような雰囲気も感じられる。
今では彫刻といえば木彫というイメージだが、横田さんは乾漆(かんしつ)と呼ばれる技法で作品を制作している。
乾漆の歴史としては古く、奈良時代に唐(現中国)から伝来した漆工技術で、阿修羅像をはじめとする仏像を制作する際に用いられている技法のひとつである。
意外にも我々の身近に乾漆像は数多く存在するが、その技法は世間にまだ知られていない。
「だからこそ新しく、そこが面白い」と横田さんは話す。
まず、粘土で動物の形を生成し、その上を石膏で覆って型取りする。
粘土を抜いた石膏型を体のパースごとに分け、その内側に筆で漆を何度も塗り重ねていく。
最後はこれらの全パーツをくっ付け、石膏部分だけを丁寧にはがし、磨きと直付け(漆を盛る)を繰り返し仕上げる。
これらの工程を経て、ようやく乾漆像が出来上るのだ。
大きい作品で約3ヶ月、小さい作品でも2ヶ月の制作時間を要するという。
完成した漆の層の厚さは約5mm。
漆はいきもののように呼吸し、気温や湿度によって伸び縮みするため、内部を補強する必要があるという。
横田さんが作品を叩くと、コンコン…と空洞のような音がするが、中は想像以上に丈夫な造りになっている(写真下)。
帰る場所があるから、旅に出る。
「旅が好き」と話す横田さんは、ヨーロッパを中心に、観光地ではなく、その地の暮らしが感じられる場所へ行くそうだ。
遠くから自分の暮らしを見つめることで、改めてその良さや愛しさに気付くように、異国の生活風景の中にいつも地元を思い浮かべるという。
近年市外からの移住者も増え、今年5月にはにぎわいの森がオープンする。
横田さんのアトリエのすぐ側にも高速道路が通り、いなべはどんどん開かれた場所になっていく。
そんな中でも、「地元の人たちとの関係性や家族との暮らし、風景、自分の周りの環境は何も変わらない。そこがまたステキだと思う」と横田さんは話す。
この先もずっと生きつづける横田さんの彫刻。
今年は動物だけでなく、大学時代に授業でつくっていたという「人」に、改めてチャレンジするそうだ。
「作品をつくることをずっと続けていきたい」と話す横田さんの瞳は、ただただ輝いていた。
■横田さん個展情報
会期:2019年2月26日(火)〜3月3日(日)10:00〜18:00
場所:かんしょ(名古屋市中区門前町5-11)
【Credit】
〈撮影・取材〉
いなべ市役所 企画部 政策課、広報秘書課
写真一部
横田千明さんより提供
〈撮影場所〉
いなべ市内 横田千明さんアトリエ