いなべ市北勢町で、北勢ライディングファームを経営している中村勇さんは、1級装蹄師でもあり、日本馬術連盟の
コーチでもあり、国民体育大会で10年連続入賞した選手でもある、非常に多才な人物だ。
今年9月に開催された茨城国体では、成年男子ダービー競技で愛馬のケアフルと共に初優勝を飾った。
(提供:中村さん)
小学生のとき、親の転勤で北海道に引っ越した中村さんは、美味しいものを食べ過ぎて太ってしまったそうだ。
最初はダイエットが目的で馬に乗り始めた中村さんだが、馬に魅了され、馬の世界で生きていきたいと思った。
卒業と同時に装蹄師の免許が取れる高等学校に入学し、その後大手乗馬クラブに入社した。
そこでは、オリンピック選手のグルーム(大会に出場する馬の世話を中心に選手をサポートする仕事)としてドイツや
ロサンゼルスに行くなど、貴重な経験をしたそうだ。
そうして、10年ほど乗馬クラブに勤めるうちに、「自分が携わった馬は、少しでも自分で面倒見たい」という気持ちが生まれた。
会社だと、馬は『経済動物(その生産物や労働力が、人間にとって利益になる動物)』のため、どれだけかわいがった馬でも
走れなくなれば廃馬になり、肉になってしまうことが当たり前だったが、そのことに矛盾を感じ、葛藤が生まれた中村さんは
悩んだ末、乗馬クラブを辞めることを決意した。
現在北勢ライディングファームがある場所では、もともと競走馬を扱っていた北伊勢牧場があったそうで、
いいタイミングで前の持ち主から「仕事を辞めようと思っているから使わないか」と話があり、施設を譲り受けたそうだ。
中村さんの仕事は主に3つ。
1つめは装蹄師の仕事だ。
全国各地から依頼を受けていて、そのほとんどが全日本大会や国体に出場する馬や蹄の病気を持った馬だ。
病気の馬の装蹄は、健康な馬と比べて2倍ほど時間がかかるが、いくら労力がかかっても値段を変えないことが
こだわりである。
2つめは、北勢ライディングファームでの馬の調教やレッスン。
北勢ライディングファームにはポニーの世話ができるポニースクールもあり、小さい子から大人まで通っている。
なかには小さいころから通っていて、今年国体で入賞した選手もいるそうだ。
3つめは、馬の仕事に関わる人への講義。
有識者として、自らの経験を話してほしいと数多くの講師依頼が寄せられ、日本中を飛び回っている。
時には、指導者資格の審査員をすることもあるそうだ。
装蹄師として馬の病気を治すことでも、講義をした時でも、乗馬を教えたときでも、必要とされることが幸せで、
やりがいだと嬉しそうに話してくれた。
また、中村さんは2匹の犬を飼っている。
かよちゃんときこちゃんだ。
命と向き合う仕事をしている以上、お店で買うのではなくシェルターから引き取ることも大事だと思い、山口県まで
迎えに行ったそうだ。
引き取ったうちの一匹は虐待されていた過去があり、最初は人見知りだったそうだが、スタッフみんなからの大きな愛を
受けたおかげか、今では私たちのような初対面の人にも寄ってきてくれるほど人懐っこい。
またこの2匹は、北勢ライディングファームの番犬として日々活躍している。
主にサル除けだ。
サルが来ると馬は怖がってしまうが、この二匹がいると近くまで来ることが無く、とても助かっているそうだ。
もともといなべ出身ではなくご縁でいなべ市に来た中村さんだが、「25年もいたらもう地元だよね」と笑う。
馬と真剣に向き合い、本気で愛している。
中村さんと馬の信頼関係が伝わってきて、温かい気持ちになった。
【Credit】
〈撮影場所〉
〈取材撮影ご協力〉
北勢ライディングファーム 代表 中村勇さん
〈取材・撮影〉
いなべ市役所 企画部 政策課