雲ひとつない真っ青な空を背に、朝陽を浴びてより鮮やかな色に輝く木々。
その時間、その場所、全てのタイミングが重なってこそ見られる自然が織りなす風景は、息を呑むほどに美しい。
昭和43年(1968年)鈴鹿国定公園に指定された「宇賀渓(うがけい)」。
いなべ市と東近江市の境にある竜ヶ岳の山麓に位置しており、長尾滝、五階滝、燕滝、魚止滝、白滝、御所滝を成し形成される渓谷だ。
今回、宇賀渓観光アドバイザーの諸岡良治(もろおかよしはる)さんに宇賀渓を案内いただきながら、魅力についてお話しを伺った。
(写真上:大石三滝)
11月下旬、宇賀渓はまさに紅葉の見頃。観光案内所に車をとめて少し歩くだけで、赤や黄に彩られた木々が目に飛び込む。
この日は遊歩道も落ち葉で染まり、踏み締める度響く音まで楽しい。
目線をあちらこちらに向け、この自然美を一瞬足りとも見逃したく無い、そんな気持ちに駆られる。
宇賀渓は本州最狭部に位置し、日本海と太平洋の風がぶつかり合う場所ともいわれている。
そのため、両方の自然の影響を受け北方系南洋系の動植物や鉱石が入り混じっているのが特徴だ。
遊歩道が整備されているので、登山をしたことの無い人でも装備だけしっかり整えれば、大自然の中でハイキングが楽しめ、
上高地を彷彿させる絵のような景色にも出会うことができる。
(写真上:魚止滝)
そして何より、遊歩道を歩きながら個性ある滝を多数見ることができるのも、宇賀渓の魅力である。
訪れる季節により異なる表情を見せてくれる滝は、神秘的で見るものの心を静めてくれる。
宇賀渓内にはキャンプ場もあり、観光案内所から徒歩で直ぐの吊り橋を下りると、壮大な渓谷に囲まれた「北谷キャンプ場」が目の前に広がる。
ここは区画で仕切られたキャンプ場ではなく、利用者は開かれた川原に自由にテントを張り、直に火を焚くことができる。
お気に入りの場所で、満点の星空を眺めながら焚き火で暖をとり、場内に流れる御所滝(写真下)と宇賀川の水音や自然の息づかいに癒される。
都会では味わうことのできない、贅沢な時間を堪能して欲しい。
夏には川を堰き止めたプールが場内につくられ、子どもと一緒に大自然を楽しめるのも魅力のひとつ。
また、敷地内には手づくりの大きな炭焼窯(写真下)があり、宇賀渓を保全する団体「竜の森林(もり)保全の会」が、
森で間伐した材などで炭を焼いている。
利用者は、その炭や薪を購入することができるため、この地で育った木々や森をより身近に感じられるキャンプが楽しめる。
炭焼窯付近には地域の小学生が訪れた人のためにと、手づくりした木の看板があり、大人ですら知らない木々の名前を知ることもできる。
日中、遊歩道に美しく射し込む木漏れ日もまた美しい。
隣接する森を間伐することで、土砂崩れなどの自然災害を防ぐと同時に、森にも光が入りその場所ならではの山野草が育つという。
このような「人の手」による一手間は、宇賀渓を訪れる人々の気づきや発見となり、安全と景観を守っているのだ。
美しい宇賀渓をこれから先ずっと守り続けていくためにも、諸岡さんたちのような「人の手」は不可欠である。
間伐材が炭となり、訪れる人に供給され循環する、まさに「地産地消」という言葉のとおり、この地にある「材」や
魅力的な「場所」を活用し、自ら生業(※)を生み出し、自然と共に歩む暮らしを楽しむ若者がもっと増えて欲しいと、
諸岡さんは話す。
※ 生活を立てるための仕事。なりわい。
まずは、ひとりでも多くの人にこの場所を知ってもらい、一度訪れて欲しい。
そして、これらの保全活動にも興味を持ってもらい「自然と共に歩む暮らし」の魅力を感じてもらえたら嬉しく思う。
諸岡さんの笑顔からは、この場所への愛と希望しか感じられなかった。
「これから冬に掛けては、樹氷が美しい。ぜひ、たくさんの人に四季折々の自然を楽しみに、宇賀渓に来てもらいたい」と諸岡さんは話す。
◆ 宇賀渓観光案内所(竜ヶ岳登山口)
【住所】いなべ市大安町石榑南2999-5 【電話番号】0594-78-3737
竜ヶ岳への登山口であり、宇賀渓の遊歩道や滝めぐりの案内所、キャンプインの受付所でもある。
登山者は、ここで登山届けを提出する。
隣接した駐車場にはトイレが併設され、入山の際は環境保全協力費として200円が必要。(駐車場利用者は除く)
◆ 駐車場(観光案内所横) 約160台駐車可能
自家用車でのアクセスが可能。東海環状自動車道「大安IC」から9㎞、「菰野IC」からは16㎞と近く便利に。
最寄り駅は三岐鉄道三岐線の「大安駅」で、宇賀渓観光案内所までは9km、タクシー利用で約15分。
近鉄タクシー:TEL.0594-72-2727
◆ 宇賀渓キャンプ場
【定休日】不定休
【お断り事項】野外(川原)・室内共、ペットの持ち込み及び花火
【Credit】
〈取材撮影ご協力〉
宇賀渓観光アドバイザー 諸岡 良治さん
〈撮影〉
ウラタタカヒデ(鈴麓寫眞)
〈インタビュア・テキスト〉
企画部政策課