「仕事、疲れたなあ…」
ちょっと落ち込んだ日は、気晴らしにとびきりおいしいものを食べたい。
そのとき訪れたくなるのが、いなべ市員弁町の「パスタ家POPO」だ。
もちもちの生パスタ。材料から手づくりで、時期ごとにさまざまなメニューを楽しめる。今日はどんなひと皿が待っているだろう。
玉ねぎ、にんじん、キャベツ、季節のハーブ。
どれも自家農園「POPO畑」でとれたてのものだ。
筍も店主自身が掘り出したという。
こだわり抜いた逸品なのに、どこか懐かしい。
旬の野菜を大きめに切り、たっぷりと。シンプルにオイルで仕上げたやさしい味。
胃腸の調子を整えるハーブ「ディル」を添えてある。
家族が体調を気遣って作ってくれたようだ。
デザートもハーブティーも自家製。
さっぱりしたジェラートには、ひとつひとつ手作業でむいたはっさくが入っている。
じめじめした初夏にうれしい。
「まあ、これでも食べて元気出して!」
そんな一言をかけられた気分だ。
POPOの料理はどれも、体の中からほっとした気持ちになる。
それを手掛けるのは松田淳(じゅん)・まるみ夫妻だ。
淳さんは元プロスノーボーダー。アジアチャンピオンとして世界の頂点を目指し、夫婦でヨーロッパに滞在していた。そのとき訪れたイタリアで、飲食店づくりを意識したそう。
イタリアでは、食事や休憩だけではなく、電話を借りるなど、ちょっとした用事があるときもカフェに行く。
「カフェにはコンビニにはない温かさがあった。そんな場所をつくりたいと思った」とまるみさんは話す。
箱型のイタリア様式の店内。
客の人数は?天候は?どんな目的での来店?
状況に合わせて自由自在にテーブルを動かしたり、照明の位置や明るさを変えたり。
POPO畑。
オーストリア・チロル地方での滞在で、なんでも手づくりする地域性に影響を受けた。
3食に加えてケーキなどおやつまで自分たちで作る。
チロル風の手づくりをとことん突き詰め、畑で材料から手掛けることに行き着いた。
ただ、時期によって、野菜がどうしてもPOPO畑だけでは足りなくなる。
そんなとき、客が無農薬の野菜を持ってきてくれる。
まるみさんは「それがPOPOのお客さん。お客さんの支えがあって続けられた」と話す。
店を始めて18年。
子どもたちが小さかったころ、客が三岐鉄道北勢線に乗せて遊びに連れて行ってくれたり、熱が出たときは預かってくれたりした。
コロナ禍にあっても、多くの人たちの支えを実感している。
いつもより多めに注文する人がいた。地元企業からは大量のテイクアウト注文が入った。
「店は家。家にきたお客さんはみんな家族」が合言葉。
ここでは誰もが店や松田さん一家に、関わっていくのが当たり前。
そして、客はいつの間にか家族になってしまう。
POPOの料理ともてなしに惹かれて。
訪れた人と共に、もっと食を楽しめる空間をつくりたい。
2人には新たな店づくりの構想がある。
その場所は「この地域で助けられてきたから、いなべしか考えられない」と淳さんは話す。
客がPOPO畑から野菜をとってきて生地に並べピザ窯で焼いたり、
好みの果物をもいでジュースをつくったりする。
肉やソーセージを店のオープン暖炉で客自身が焼く。
自分の好みで材料を集め、調理する。
自分の家の畑や台所にいるようにくつろぎながら、
それぞれが食にじっくり向き合えるできる時間を、2人は演出しようとしている。
みずみずしい野菜がいっぱいのパスタやピザ。
暖炉でジュワっと肉汁があふれだすソーセージ。
もしかして、スコーンに添えるジャムも自分で作れるかも?
食を通しどんな世界が広がるか。想像するだけでワクワクする。
POPOと松田さん一家に出会ったたくさんの家族が、実現を待っている。
「新しい家で、もっと元気になろう」
パスタ専門店 パスタ家POPO
【Credit】
〈取材撮影ご協力〉
パスタ家POPO
〈撮影・取材〉
パスタ家POPO、いなべ市役所 企画部 政策課
〈取材日〉
令和2年5月28日