青、ピンク、白。ふんわりと咲くあじさいの花。その数なんと6,000株。
6月中旬、いなべ市北勢町の万葉の里公園で見ごろを迎える。
あじさいの名所として有名だが、年中地域の交流空間として活用されている。
平日は保育園児の散歩コースになったり、休日は家族の憩いの場になったり。
芝生のエリア、木々の間を探検するように巡ることができるエリア(夏も涼しい!)で、のんびり過ごすことができる。春には桜も咲き、知る人ぞ知るお花見スポットでもある。
さて、ここに植栽された植物には秘密がある。ヒントは公園名。
そう、万葉集に登場する植物が集められているのだ。
万葉集は、奈良時代に編纂された現存最古の和歌集。約4,500首が収められている。うち約1,500首に150種類以上の植物が登場する。梅、藤、蕨、など、私たちにもなじみ深いものが多い。歌の舞台は関東から九州と幅広いが、都があった近畿地方中心に歌が作られたため、必然と近畿に自生する植物が多く詠まれている。
いなべ市は残念ながら万葉集には登場しない。が、自然条件が都に近く、また関東以西の植生は共通しているため、いなべでも同じ植物を見ることができる。そこで、1990年代に「万葉集で扱われ、地域に生育する植物」を中心に「万葉の里づくり」がはじまった。
この整備に大きくかかわったのが北勢町在住の葛山博次さんだ。
生物の教員として、県内中学や高校で教鞭を執り、四日市工業高校校長を最後に定年退職。その後、いなべ市合併前の北勢町教育委員会に非常勤職員として勤めた。北勢町誕生30周年を記念する事業で、町のキャッチフレーズ「みどりと文化がとけあうまち」に合うアイデアを提案した。
「万葉集と植物が大好き」という葛山さん。
万葉集の歌は素朴で力強く、恋愛、旅、季節などを感情豊かに表現しているのが特長。日本の誇るべき文化遺産であると同時に、時を超え今の私たちも共感できる歌が収められている。
「歌を通して全人教育になる」と葛山さんは話す。
まちの未来を担う子どもに、万葉の世界から学びや気づき、感動を得てほしい。そんな願いが込められ、単に万葉集の植物を集めるだけでなく、紹介看板を設置。名前や分類のほか、その植物に関する歌と現代語訳が記載されている。
小学生でも楽しめるようフリガナがついている。
葛山さんのお気に入りの一首は「ツゲ」。長く連れ添った家族の愛が詠まれる。
看板は公園の至る所にあり、ちょっとした宝探し気分だ。あじさいの看板はどこだろう?
初夏の緑を楽しみながら、1300年前に生きた人の想いをたどる。
「あじさいの花がいくつも重なって咲くように、人々は寄り添い、助け合い、あなたにも元気でいてほしい」
奈良の都人といまここにいる私たちの心持ちは、あまり変わらない。
ぜひあなたの一首を探しにきてほしい。
【Credit】
〈取材撮影ご協力〉
葛山博次さん
〈撮影〉
いなべ市役所 農林商工部商工観光課
〈取材日〉
令和3年5月、6月
※あじさいの写真は昨年以前のものを含みます