藤原町 鼎(かなえ)は、いなべ市の北端にある地区のひとつだ。
東海地区最大級の梅林公園を有するこの地区の名を、初見で読める人は少ないだろう。
そもそも「鼎」とは、古代中国で煮炊きをする時に使われた3本足の鍋釜のことで、その昔この地区が3つの集落から成っていたことから、3本足に似せてこの名がついたという。
その鼎の道路沿いには、「人?」が立っている。
運転中、目に入ると、車を停めて近くで見たくなるほどの衝動に駆られる。それは「人」ではなく、リアルな「かかし」。
このかかしは、藤原町 鼎の「夢ひろばボランティア」に参加する女性6人が中心となって制作している。
今回は、そんな「夢ひろばボランティア」の皆さんに、かかし作りについての話を伺った。
「鼎地区は、車は通るけど、歩いている人がいない。なんか寂しいなあと思っていて。かかしでも作ってみたらおもしろいかも」と、その頃、地域住民のつながりを深める活動の場「ふれあいサロン」を運営していた、長屋素子さんの声掛けで、かかし作りは始まった。
かかし作りのノウハウがなかった当時、隣の滋賀県東近江市に、名人がいるとの情報を耳にし、実際に見に行ったところ、あまりにもユニークなかかしに感動した。鼎でも頑張ってかかしを作ろう!と刺激を受け、この3年間で、約50体ものかかしを制作したという。
かかしの土台は、当初、木を十字に組んだものを使っていたが、「これでは、お年寄りの腰の曲がった感じが出せない!」と試行錯誤し、ハンガーなどのワイヤーを伸ばして土台にし、手足も動くよう工夫した。その上に新聞紙と防水対策のための緩衝材を巻く。
最後に古着を着せると、まるで本当のお年寄りのような体が完成する。
「トイレットペーパーの芯は、束ねれば首になる」
なるべく家にあるものを、各自持ち寄って作るという。
衣替えのタイミングも、人と同様に行い、夏は涼しげで、冬はあたたかな衣服を着せてあげる。
何ヶ月もの間、雨風にさらされるため、退色したり、蟻の巣がかかしの中に出来ることも。そういった場合は解体し、また新たなかかしを制作し立てる。
「愛嬌のある子どもと、お年寄りが寄り添って、一緒に楽しんでいる様子のかかしを作りたい」、「やっぱり子どもが一番かわいい!」、「上手に出来たときは、うっとりするよね〜」とかかしに対する愛情は尽きない。
お気に入りのかかしとのツーショットは、まるで我が子を抱きしめる母親そのものだ。
かかしの中には、地域の方をモデルにしたものもあり、その人のことを想像しながらの制作は、自然と笑いが起こる。
声を出して笑い、気心知れた仲間とかかしを作ることが、何よりの楽しみであり、生きる気力になる。
「今後もっとこのような笑顔溢れる活動の輪を、地域に広げたいと思っている。」と話す様子は、どこまでも明るい。
本来、害獣を追い払うためのかかしが、ここでは人と人をつなぎ、笑顔を生み出している。
今年も5月には、国際自転車ロードレース「ツアー・オブ・ジャパン」の熱戦がいなべ市でも繰り広げられる。
選手はもちろんだが、応援グッズを手にした、鼎のかかし応援団は必見だ。
今では、地域の様々なところから、制作オファーが舞い込むほど大人気となった「鼎のかかし」。
今後、夢ひろばボランティアの手によって、どんなユニークなかかしが生み出されるのか、楽しみでならない。
【Credit】
〈取材撮影ご協力〉
女性部「夢ひろばボランティア」
※現在、毎週火曜日に鼎の「夢かなえ荘」で制作活動を行っている。
長屋 素子さん
西脇 かづゑさん
三輪 ユリ子さん
竹中 富砂代さん
三輪 美代子さん
西脇 千鶴子さん
子どもたち
西脇 侑里さん
伊藤 彪雅さん
伊藤 洵さん
〈撮影〉
高橋博正写真事務所/山の上スタジオ
高橋 博正
〈インタビュア〉
いなべ市役所 企画部 政策課