三重、滋賀、岐阜の3県に接する山あいの地域、藤原町立田地区 篠立。
ここに、時(とき)を超えて今もなお、先人たちの想い出が詰まった品々を大切に守り続けている人がいる。
いなべまちかど博物館のひとつ「立田ふるさと館」のシャッターを開けると、そこには壁に掛けられたいくつもの時計が天井まで続き、
ひとつひとつに動いていた頃の時(とき)を感じることができる。
カメラを向けると、少し照れた様子で微笑んでくれたのは、三羽すみゑさん。
今は亡きご主人の三羽守夫さんが、約40年にも渡り集めたという大切な品々を、ここで守り続けている。
館内には、まさに博物館という名に相応しく、煙管(きせる)やライター、草履、火鉢、食器などの生活道具をはじめ、
カメラ、鼈甲のかんざし、古銭、終戦時に玉音放送を聞いたというラジオなど、明治から昭和期に使用されていた品々が、約3,000点びっしりと並べられている。
それも、1種類につき1つではない。多いもので5つ以上、綺麗に同じスペースに並べたり、積み上げたり工夫して展示されている。
小さなものでも密集すると、大変な迫力である。
「藤原町にあるものが良い、訪れた人にこの地区の歴史を感じてもらいたい」と、なるべく地元のものにこだわって収集していたという、故・守夫さん。
その時代を生きていた人にとっては、宝島のような場所だろう。
角度など、綿密に計算して設置されたかのような、ミニカーの数々。
守夫さんは、「譲ってあげる」というもの全てを家に迎え入れていたそうで、まるでその優しさが表れているかのように同じバスが3台並ぶ。
すみゑさんご自慢の蓄音機は、館内に4つある。
ゼンマイ式のため、一生懸命に手でハンドルを回し、レコードの回転速度を確認しながら、ゆっくりと針を落とし聴かせてくれた。
「昔はこの蓄音機でレコードをかけて、踊っていたんやに」と話す、すみゑさん。
回転や振動に合わせて揺れる歌声をしばらく聴いていると、昔にタイムスリップしたかのような不思議な感覚になり、すみゑさんが楽しそうに踊っている当時の姿が目に浮かぶ。
「立田ふるさと館」には、地元の子どもから大人、市外からもいろんな人たちが来館する。
10年以上前に訪れた小学生から、後日もらったという手紙や写真は、守夫さんが作った額に入れて、今でも大切に色褪せることなく保管されていた。
「この頃来てくれた小学生の子らはもう中学生かな」と、当時を振り返り懐かしんで話す、すみゑさん。
更には、「最近こんな人が来てくれたんや」と、来館された人たちと一緒に撮影した写真を、自身の最新型タブレットで、素早くスクロールして見せてくれた。
想い出を残す方法は時代に合わせ、アップデートされているようだ。
「先人の 魂込めし品々 守る歓び」 守夫
今でも水が出るという井戸の横に掲げられた言葉のとおり、守夫さんの集めた大切な品々からは、今に繫がる歴史を体感することができる。
そして、想いの込められた品々を見に人が集まり、またここで新たな想い出や繋がりが生まれる。すみゑさんは、それが何より嬉しいと話す。
「今の季節は山がとっても綺麗やろう。春には山桜も綺麗なんやに」と、すみゑさんが指差す方には、新緑の鮮やかな緑が山々を彩り、美しい景色が広がっていた。
昭和39年 東京オリンピックが開催された頃、守夫さんの仕事の関係で、数年千葉県に住んだことがある。
当時は「住めば都、帰りたくない!」と強く思ったそうだ。
しかし、帰って来たら帰って来たで、やはり想い出がたくさん詰まった地元。
「ここがやっぱり一番やね。もう出たくない」と、暮らしやすさに改めて気付いたという。
帰り際、「来てもらって見てもらって、主人も喜んどるわ」、チャーミングな笑顔で掛けてもらったその言葉が嬉しくて、何度でもここに来てすみゑさんに会いたい、そう思った。
【Credit】
〈取材撮影ご協力〉
いなべまちかど博物館《立田ふるさと館》
館長 三羽 すみゑさん
〈撮影〉
高橋博正写真事務所/山の上スタジオ
高橋博正
※いなべ市役所 企画部 政策課所有の画像も使用
〈インタビュア〉
いなべ市役所 企画部 政策課
〈撮影場所〉
TEL: 0594-46-3134
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