“古田のミスター・じぃじ”。
そんな風に書くと「馬鹿なことを!」と言う姿が目に浮かぶ。
……でもね、敬意を込めて、そうお呼びしたいのだ。
いなべ市がグリーン・ツーリズムとして中山間地域の観光や振興、地域活性化に取り組むよりも、約20年も前の話。
この”古田のミスター・じぃじ”は、いち早く時代の流れを読み、グリーン・ツーリズムで地域の田や農村を守ろうと奔走してきた。
藤原ファームの代表取締役、近藤正治さん。
卓越した時代観、経営センス、そして実行してしまうその胆力に脱帽する。
三重県の北の玄関口にあたる、いなべ市藤原町古田の国道365号沿いに、この会社が運営する草餅えぼしがある。
草餅えぼしは、地域の資源を使って生産・加工・販売すべてを行い、6次産業化を実現している。
「市外の人たちに、まずはこの場所に足を運んでもらうこと」
近藤さんは、単に売上を伸ばすことだけでなく、地域の活性化というビジョンを大切にしている。
そう、この味。
看板商品の一つ「草餅」は、粒あんのやさしい甘さと心地いい弾力がある、懐かしい味だ。
昔は祖母が手づくりしてくれたものだ。
子どもの頃、毎日がただただ楽しくて幸せだった記憶がよみがえる。
ノスタルジーに浸りながら一つ頬張ると、またもう一つ、と勝手に手が伸びてしまった。
近藤さんは、ほうすけクラブという地域の団体でグリーン・ツーリズムに早くから取り組み、農業体験イベントや、遊歩道の整備などを毎年実施。
また毎年フクロウの巣箱をつくり、巣立っていく姿が見られるなど豊かな自然をそのまま残そうと尽力されている。
平成17年には毎日新聞社「グリーンツーリズム大賞」を受賞、平成19年には農林水産省優良賞を受賞するなど高い評価を受けてきた。
これが、近藤さんの守りたい古田地区の風景。
山の麓に田が広がり、夏にはホタル舞う川や水路が張り巡っている。
ここは、まさに、日本の原風景だ。
寄り添う妻の幸代さんも、これまで近藤さんの支えとなって一緒に地域を盛り上げてきた。
「100のものをそのまま100で売るのではなく、100のものを加工して付加価値を高め1000にも2000にもして売っていくことによって地域が生き残れるんですよ」
そう力強く語る近藤さんは、常に一つ先を見ている。
そう、それが”古田のミスター・じぃじ”だ。
“古田のミスター・じぃじ”は年を重ねても、将来を他人事とせず、自分のこととして受け止めている。
それはひとえに、ツケを若者に残さないため。
そして、豊かな自然と古田で暮らす喜びを、そのまま若い人たちに継いでいくため。
「そろそろ、世代交代はいかがですか?」と質問するのはやめた。
ミスターは、きっと怒る。とても怒ると思う。
「それは無責任だ!」と言う姿が目に浮かんだ。
地域が生き残るために、近藤さんの挑戦とその情熱は衰えることを知らない。
【Credit】
〈取材撮影ご協力〉
藤原ファーム 代表取締役 近藤正治さん
〈撮影〉
高橋博正写真事務所/山の上スタジオ
高橋 博正
※一部でいなべ市役所 企画部 政策課の画像等なども使用
〈インタビュア〉
いなべ市役所 企画部 政策課
〈撮影場所〉
草餅えぼし TEL:0594-46-2448