ふわふわのお餅で包まれた白餡と、甘酸っぱいイチゴのハーモニーがたまらない、今が旬の「いちご大福」。
北勢町阿下喜(あげき)にある老舗和菓子屋、「新角屋(しんかどや)」の名物だ。
昔、阿下喜で宮大工を営んでいた山本家の奥様方が、手隙の際、和菓子をつくっていたのがきっかけで、明治末期に「新角屋」の名で和菓子屋を創業。
現在は、五代目 山本章貴さんと、女将 山本照美さん(写真下)の親子ふたりで、代々受け継がれる新角屋の味を守り続けている。
新角屋の1日はとても長い。夜中の2時、3時まで休憩を取りながら翌日に販売する和菓子の仕込みをし、朝早く卸先へ出荷のため配達へと出向く。
更に年末年始は、和菓子の製菓に加え、のし餅や鏡餅の注文販売が追加になるため、1年で最も忙しい時期を迎える。
遠くに住む家族の力を借りることもあるが、基本は親子ふたりで、数多くの工程を日々こなす。
五代目山本さんは、幼い頃から祖母に背負われ、四代目である父の背中をずっと見て育ったこともあり、高校2年生の頃には、
「自分が、新角屋の味を守らなければ…」と、店を継ぐ覚悟を決めたという。
高校卒業後、名古屋にある老舗和菓子屋「美濃忠」本店で約10年もの間修行した後、阿下喜に戻り、五代目として
新角屋の看板を背負う和菓子職人となった。
季節ごとに趣向を凝らし、和菓子と向き合い、つくり続ける日々。
古くから日本文化と共にある和菓子の強いイメージと、代々受け継がれる味を、ずっと守り続けていく、その覚悟は並大抵のものではない。
そこには、和菓子や家族への愛はもちろん、老舗を受け継ぐ使命感を感じる。
そして、五代目山本さんと共にお店を支えるのが、新角屋の看板娘!こと、女将の照美さんだ。
名前のとおり、このまちをも明るく照らす愛らしい笑顔は、訪れる人の心を和ませ、何より元気をくれる。
チャーミングな接客に、和菓子もついつい買い過ぎてしまう。
和菓子の持つ魅力は、日本らしい四季の美しさや空気感を感じられるのはもちろん、そのまちの人や雰囲気を感じ、楽しめるところにもあるように思う。
昭和38年から販売しているという、北勢銘菓「椎茸の里」。(写真上)
椎茸は北勢地区の名産品だったことから、当時阿下喜に8店舗もあったという和菓子屋の会合で「椎茸の里」と命名され生まれた。
餡の味は店舗毎に異なり、オリジナリティに富んでいる。
新角屋の餡は、丁寧に炊いた北海道産小豆に、なんと…名前どおり干し椎茸が刻んで練り込まれており、不思議な食感や独特の風味がくせになる美味しさだ。
かつて阿下喜に数多くあった和菓子屋も、今では「新角屋」と「松寿園(しょうじゅえん)」の2店舗のみとなってしまったが、
当時のにぎわいに耳をすませ、趣ある阿下喜のまちを歩きながら、食べ比べてみるのも楽しいのではないだろうか。
『新角屋』
【住所】三重県いなべ市北勢町阿下喜1044
【電話番号】0594-72-2273
【営業時間】8時30分頃~19時30分頃まで
【定休日】不定休
【Credit】
〈取材撮影ご協力〉
新角屋 5代目 山本章貴さん、女将 山本照美さん
〈撮影〉
ウラタタカヒデ(鈴麓寫眞)
〈インタビュア・テキスト〉
企画部 政策課