地域に残る先人達の知恵と技術。
かつて生活の糧であった「炭焼き」という伝統を、地域に再び根付かせていきたい。
そんな思いを胸に地域の有志が立ち上がり、いなべ市藤原町立田地区に手作りの炭焼き小屋が誕生した。
(左:三輪 了啓さん、右:加藤 潤一さん)
その拠点を担う中心人物の1人が、一昨年の秋にこの立田地区に移り住んだ加藤潤一さんだ。
自然がすぐ側にある環境と、人との交流が深い地域性に惹かれ移住を決意し、地域おこし協力隊として、この地区の魅力を発信するべく活動している。
そして加藤さんと共に炭焼き小屋に関わっているのが、立田地区の歩みを良く知り、「先生」と慕われる三輪了啓さん。
加藤さんが移住してきた当初から、彼の活動を理解し、寄り添い続けている。
立田公園の一角にある平屋作りの小屋には、ドラム缶と耐火ブロックで作られた窯が据えられている。
窯の近くを通ると、清涼感のある独特の香りが鼻先をくすぐる。
「竹酢液の匂いだね」と、竹割りの説明をしながら加藤さんが教えてくれた。
竹の節をナタで落とし、鋳鉄で出来た竹割り器で上から小突くと、あっという間に形の揃った竹炭の素が出来上がる。
元々立田地区には炭焼きの跡が何百とあり、ほとんどが木炭を焼いていた。
ここでは地形上穀物が育ちにくく、木炭は年貢代わりに献上され、地域の暮らしを支える大切なものだったそうだ。
竹林の整備を兼ねて伐採した竹が、炭焼きの材料となり、更に加工品へと姿を変える。
そんな理想的な流れと「竹炭はやっている人もあまりいないから」という理由で竹に着目した。
一口に炭焼きと言っても、実は大変手間のかかる作業である。
窯に竹を詰め込み、密閉した状態で1時間半程度焚きつけをする。水蒸気が出て窯の中の温度が約200度を超えるには、更に約2時間ほどかかるそうだ。
一定まで温度が上がった頃、焚き口を塞ぎ、空気穴を開けた状態で一晩かけて序々に燃やしていき、翌朝を迎える。
「全体にまんべんなく焼くには、時間をかけてゆっくり、じっくり焼くといいんだけど、そんなに時間もかけられないから」
そうして約1日ほどかけて窯の温度が1000度を超えた後は、更に1日かけて温度を下げながら炭化させていく。
出来上がった竹炭はゆっくり冷やして出来上がる「黒炭」と言われる部類のもので、火力が強いのが特徴だ。
炭焼き小屋を良く見ると、竹炭以外にも変わった形の炭があることに気が付く。
蓮(ハス)の実や、松ぼっくり、あるものはまるで花そのもので、随分と繊細だ。
「花炭って言って、鉄の箱の中に入れて焼くと、こうやって綺麗に形がでるんですよ」と、加藤さんは嬉しそうに話す。
家庭にあるお菓子の缶などでも、作ることが出来るらしい。
「案外簡単だから山で木の実なんかを拾って、それを花炭にしてもいいな」と、ワークショップの構想が広がっているようだ。
昨年秋から始まった炭焼きだが、今はまだ試行錯誤しているから、という理由で火入れをする日は公けにしていない。
だがやがて来る春には炭焼き小屋をオープンさせていきたいと意気込む。
「いろんな人の助けで小屋を建てたり、教えてもらったりしてようやくここまで辿り着けた。決して自分が特別という訳ではないし、ここで何故炭焼きをしているかを忘れずにいたい」と、初心と感謝の心を忘れない。
一度は消えかけた「炭焼き」という灯。この小屋が再びその灯で明るく照らされる日は、そう遠くない。
【Credit】
〈取材撮影ご協力〉
地域おこし協力隊 加藤 潤一さん (秀真竹炭工房)
三輪 了啓さん
〈撮影〉
高橋博正写真事務所/山の上スタジオ
高橋 博正
※花炭の写真は市役所提供
〈インタビュア〉
いなべ市役所 企画部 政策課