お寺に魅せられる人が増えている。若い女性も例外ではない。
「御朱印帳」と呼ばれる帳面を携えた「御朱印ガール」なるものが急増しているというが、
いなべ市藤原町鼎地区にも、いかにも「御朱印ガール」が好みそうな寺がある。
枯山水の石庭が美しい禅寺「龍雲禅寺」だ。
作務衣姿で迎えてくれたのは長屋素子さん。
龍雲禅寺の十九代住職 長屋眞巖(しんがん)さんの母であり、住職と共にこの寺を守り継いでいる。
1479年に開山した龍雲禅寺は、本尊に靴を履いた阿弥陀如来立像が祀られている。
江戸時代から続く歴史ある寺だが、明治時代に一度焼失しているそうで、現在の寺はその時再建したものだ。
門をくぐると、禅の「心を静かに」という語釈がそのまま形を成したかのような、枯山水の境内が広がっている。
「禅寺はとにかく掃除掃除ですわ。それも修行のうち」と素子さんが教えてくれる。
整然とした境内に落ち葉はなく、石で造られる山水の水面は、たおやかな表情を見せる。
この石庭は前住職が作り、現住職の眞巖さんが手入れをしている。
眞巖さんは枯山水で有名な京都龍安寺で修業をし、枯山水の技術を学んだとのこと。
よく見ると植木に混ざってペンギンや童の像があり、意外な顔ぶれに思わず頬が緩む。
聞くと全部地域の人からもらったもので、50年くらい前からあるそうだ。
龍雲禅寺の見どころは枯山水だけではない。
寺の入口付近には紅葉と四季桜がある。秋には日に日に色づく黄みがかった朱色と、淡い桜色の共演を楽しむことが出来る。
「大般若会と山門施餓鬼、開山忌、白寿観音祈祷会…」
禅宗は行事が多くてね、と言いながら素子さんが行事表を見せてくれた。
鼎地区自体は檀家が少ないが、日本人は宗派に関して寛容な気質からか、檀家以外の人がお参りに来ることも多い。
行政と連携して行った座禅体験会をきっかけに、その後何度も足を運ぶ参加者もいるらしく「熱心なのよ、若いのに」と、素子さんは嬉しそうに話す。
地域を盛り上げるために、と取組みが始まったグリーン・ツーリズム事業。鼎地区と行政が連携し出して、4年目の春を迎える。
「市役所の助けもあって、成り立っていることもある。私たちだけでは出来ないこともあるんじゃないかな」と行政を労う素子さんは、どこまでも優しい。
「鼎の人は皆協力的だから助けてくれる。人の役に立つ何かを出来ること、それを喜びとしてやっていくことに意味があると思う」
十九代続くこの寺を守り継ぎ、様々な人と交流してきた素子さん。
地域の橋渡し役になることも多い彼女の言葉は、鼎地区のこれからを思いやるもの。
慈悲深い笑顔は、きっとこの地区と龍雲禅寺になくてはならないものなのだろう。
【Credit】
〈取材撮影ご協力〉
龍雲禅寺(りょううんぜんじ)
ご住職 長屋 眞巖さん
長屋 素子さん
〈撮影〉
高橋博正写真事務所/山の上スタジオ
高橋 博正
〈インタビュア〉
いなべ市役所 企画部 政策課